神戸新聞 栄光への礎 ヴィッセル神戸の08年
Jリーグ1部(J1)神戸は今季、クラブ史上最高だった昨季と同じ10位でリーグ戦を終えた。J1で初めて勝ち越すなど収穫もあったが、目標の「5位以内」には届かなかった。堅守速攻を掲げた松田監督は退任し、後任にはカイオ・ジュニオール氏が内定した。初タイトル獲得への礎は築けつつあるのか。今季の戦いから検証する。
■上■ 組織の成熟 守備が安定 失点大幅減
「試合はまず安定した守備から。昨年からやってきたことの精度を上げることが、チーム力の向上につながる」。松田監督のチームづくりは、リーグで5番目に少ない総失点「38」となって表れた。昨季より「10」も減り、組織的なゾーンディフェンスは神戸の代名詞になった。
主力がけがをしても、小林や松岡ら控え選手が遜色(そんしょく)ない働きをできたのは、決めごとをチーム全体で徹底していたからだ。
最終ラインから前線まで、陣形をコンパクトに保って、相手に自由を与えない。一方、高い位置からプレスをかけ、味方のスペースは素早く埋める。守備の要・北本が「誰がボールを持つ相手にチャレンジして、誰がカバーするのかしっかり確認できていた」と認めるほど、守備戦術の浸透は著しかった。
ただ、集中を90分間キープするのは簡単ではない。気落ちして、あっけなく失点を重ねるケースも目についた。
8月27日の鹿島戦。先制したが後半13分に追いつかれ、1分後に決勝点を奪われた。2―5で惨敗した11月15日の天皇杯鳥栖戦のように、立ち上がりの失点で焦り、リズムを取り戻せなかった試合もあった。いずれも時間に余裕はあった。「敵は自分たちの中にいる」と漏らす選手もいた。
新監督には、カイオ・ジュニオール氏の就任が内定した。かねて「ベースとなる戦術の継承」を後任の条件としていた安達社長は「勝ち方を具体的に指導してほしい」と期待を寄せる。松田監督が築いたスタイルに、“勝者の心理”を植え付けられるか。手腕が問われる。
■中■ 打開する力 中盤に起点 攻撃に厚み
攻撃面では手応えをつかんだ一方、課題も突きつけられた。
神戸の代名詞になったカウンター。象徴的だったのは、10月4日の京都戦と同18日の浦和戦だ。京都戦では、退場者を出した後に連続得点して快勝。浦和からは、レアンドロのゴールで5年半ぶりの白星を挙げた。
いずれも前がかりの相手を逆襲で仕留め、「堅守速攻」の切れ味を見せつけた。11ゴールの大久保も「カウンターの鋭さが増し、自信がついた」と振り返った。
一方、引いて守られたり、スペースを埋められると、FWが孤立するなど、攻めあぐねるシーンが目立った。勝ち点が伸びなかった夏場には、大久保が「顔を上げるとレアンドロしかいない」と嘆いたほど。司令塔のボッティが、持病の腰痛で本来の力を欠いたことも響いた。
優勝争いに加わるには、堅陣を崩す多様な攻撃パターンの確立が欠かせない。そのヒントになりそうなのが、大久保のコンバートだった。
9月上旬、大久保は「中盤でためをつくりたい」と志願し、FWから左MFへ移った。安定したボールさばきは全体を落ち着かせ、ボールキープ力は高まった。サイドバックのオーバーラップなど攻撃の厚みは増し、9月下旬からJ1ではクラブ初の5連勝。神戸のサッカーに慣れてきた金南一が真価を発揮し始めたこともあり、息を吹き返した。
神戸の安達社長は「起点となる大きな選手の周囲を、スピードのあるFWが走り回れば」と来季のチーム像を描いている。足りなかった力を移籍や配置換えなどで補い、新たな力へ高める作業はすでに始まっている。
■下■ 遠いゴール 好機逃し勝ち点こぼす
「攻撃の形はつくれていた。あとは最後の精度だけ」。ゴールのチャンスを逃すたび、神戸イレブンは異口同音に嘆いた。開幕前の目標だった「5位以内」を逃し、10位に甘んじた最大の要因は決定力不足だ。
リーグ戦でのシュート数で見ると、昨季の417に対して今季は421とほぼ同じだが、ゴール数は58から39に激減した。J1復帰2年目で、各チームにカウンターを研究されたこともあり、5月3日の浦和戦から9月20日の清水戦まで、得点が「1以下」の試合が16試合も続いた。
昨季、初めてコンビを組み、29ゴールを挙げたレアンドロと大久保のツートップは今季、18ゴールにとどまった。特に、3月30日に鎖骨骨折で戦線離脱したレアンドロは、得意の右足シュートのコースを断たれたり、ゲームメークに加わったりと、復帰後もゴール数は伸びなかった。
一方、大久保は昨季より3減の11ゴール。6月29日の大分戦から8試合連続でノーゴールとむらがあった。大久保は「そのうち入る」と繰り返したが、安達社長は「昨季に比べ(シュートに)余分な力が入っていた」と見ていた。日本代表の疲れもあったかもしれない。補強組では吉田が5ゴールと気を吐いたが、松橋と須藤は無得点と精彩を欠いた。
今季、神戸はJ1で一番多い11の引き分けを記録した。勝ち点1を確保したが、同2を取りこぼし続けた結果とも言える。ボランチながら前線にも顔を出す田中は「一つのプレーに対する集中をより高めるしかない」。勝てる試合を確実にものにすること。栄冠への絶対条件だ。
